製造業DXが進まない理由、技術力ではなく組織の側にある。そう気づかせてくれたのが「いつまでその”DX”を続けるのか」(島崎崇著/ダイヤモンド社)という一冊でした。戦略コンサルファームの現役執行役員が書いたこの本を読みながら、自分自身の製造業DXコンサルの経験と照らし合わせて感じたことを整理します。
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「分断」の正体は、部門間のR&Rの隙間だった
本書のキーワードは「分断」です。経営・事業・IT部門がそれぞれ別の言語で話し、噛み合わないままプロジェクトが進んでいく状態を指しています。読みながら、これは自分の現場感覚とかなり近いと感じました。
ただ、実際の案件で肌で感じるのは、「分断」というより明確なR&R(役割と責任)の隙間です。受注先はどこか一つの部門であることがほとんどで、そこから他部門にヒアリングをかけると、途端に「これは誰の管轄なのか」「誰が意思決定できるのか」が曖昧になる場面に何度も出くわします。分断というと、両者が対立しているようなイメージを持ちがちですが、実態はもっと地味で、単に「誰の仕事か決まっていない」というグレーゾーンが放置されているだけ、というケースが多い印象です。
対立ではなく空白。この違いは支援の仕方にも影響します。対立であれば利害調整が必要になりますが、空白であれば「まず誰の役割かを決める」だけでプロジェクトが動き出すことも少なくありません。本書を読んで、「分断」という強い言葉の裏にある、こうした地味な実態を言語化できた気がしています。
「のりしろ」役をコンサルとして担った経験
本書では、この分断を埋める機能として「のりしろ」という概念が提示されています。部門と部門の間に立ち、双方の言葉を翻訳し、プロジェクトを前に進める役割です。
これは、自分自身がコンサルとして現場で何度も担ってきた役割そのものでした。他部門との調整を自分が主体となって進めた案件では、コンサルタントという立場だからこそ、課題をその場で瞬時に捉えて言語化し、解決策の提示までファシリテーションを含めてスムーズに進められた実感があります。社内の人間だと、どうしても部門間の力関係や過去の経緯が邪魔をして、フラットに課題を指摘しづらい場面があります。外部の立場だからこそ言えること、動けることがある。この本を読んで、自分が現場でやってきたことに「のりしろ」という名前がついた感覚がありました。
もう一つ感じたのは、この「のりしろ」役は必ずしもコンサルである必要はない、ということです。社内に一人でも部門を横断して動ける人がいれば、その人が同じ機能を果たせます。ただ現実には、そうした人材が社内に育っていないケースが多く、結果的に外部のコンサルが一時的にその役割を肩代わりする構図になりやすい。本来は、コンサルが入っている間にこの「のりしろ」機能を社内に移植していくことこそが、支援の本質的な価値なのだと思います。
「事業主導型DX」に納得した理由
本書のもう一つの主張が「事業主導型DX」です。IT部門や外部ベンダー任せにせず、事業を推進する当事者自身がDXを主導するべきだという考え方です。
これは、コンサルという「外部」の立場から見ても、その通りだと感じます。当事者意識がなければ、どんなに優れた提案も他人事にしか聞こえません。価値を感じていない取り組みに、現場が本気で動くモチベーションが湧くはずもないからです。
正直なところ、これまでのコンサル生活を振り返ると、コンサルタントが主体となってプロジェクトを引っ張るスタイルが当たり前でした。しかし本書を読んで、事業推進者自身が主体となって進めていく形にこそ、本来のDXの姿があるのだと納得させられました。コンサルの役割は、主役として引っ張ることではなく、事業主導で進める現場を「のりしろ」として支えることなのかもしれません。
よくある質問
Q. 「なぜ現場のDXは進まないか」を製造業コンサルの視点で解説する、結局どこがポイントですか?
「分断」の正体は部門間のR&Rの隙間で、対立ではなく空白です。それを埋める「のりしろ」役をコンサルが担いつつ、最終的には事業側が主導権を持つ形に移行していくことが本質だと感じています。
まとめ
「いつまでその”DX”を続けるのか」というタイトルは、正直最初は挑発的だと感じました。ただ読み進めるうちに、これは「コンサルに丸投げしたまま止まっているDX」への問いかけなのだと気づきました。分断の正体はR&Rの隙間であり、それを埋める「のりしろ」の役割は誰かが意識的に担う必要があり、そして最終的には事業側が主導権を持つ形に移行していく。この3つの流れは、今後の製造業DX支援において、自分自身が意識し続けたい視点だと感じています。
コンサルとして案件に関わる以上、いつまでも自分たちが「のりしろ」であり続けるわけにはいきません。むしろ、支援が終わったあとも事業側が自走できる状態を作れているかどうかこそが、DX支援の本当の成果だと言えます。次にDXが進まない現場に入るときは、「誰の役割か」を最初に確認すること、そして自分たちがいなくなったあとの姿を意識しながら動くこと。この本から得た一番大きな学びは、この2点に尽きます。
現場の分断を「のりしろ」として埋める経験は、コンサルとしての専門性そのものです。
この記事を書いた人:製造業・AI活用専門のコンサルタント。双子育児中のパパ(いけぽん)。育休中にブログ「twins-work-life.com」を本格始動。



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